アメリカ西海岸の旅。
photo and text by Eiko




●vol.1知らない世界

アメリカってどんなとこ。



なんとなく、どこか傲慢な大国。
みんなピストルやナイフを持ってる危険な場所。
合成着色料でできた食べ物と、
それを山のように食べる人のいるところ。


日本人のわたし。
敗戦国に生まれた私。
いつのまにか
「嫌い」なイメージを抱いている。

なんとなく入ってくる情報だけが、
私の知識であり、
それ以上何も知らない、
知ろうともしなかった自分に
ちょっと驚いていた。

アメリカに行ったら、何がしたい?
どこに行きたい?
何を見たい?







大きなハンバーガーを食べること。
ジャンクフードを買い込むこと。
なんにもない荒野にある一本の道を車でひた走ること。


ーそれだけ?

そう、それだけ。

どうやら実現できそうな夢らしい。







●vol.2クラムチャウダー



辿り着いたのは
サンフランシスコ

飛行機で約8時間



あたたかい。
12月だというのに花が咲き
Tシャツ姿もめずらしくない


空港から南へいった海沿いの町、
モントレーへ向かった。

穏やかな雰囲気に
意外さを覚える。


夕暮れの空。

カモメとオットセイを眺めながら、クラムチャウダー。



なんだか、…まんざらでもない。

●vol.3 モーテル



「わたし、昨日はモーテルに泊まったの」

日本では、なんだかいかがわしい。

もともとは車旅行者用の宿泊施設
モーター+ホテル=モーテルというらしい。

ここには街道沿いにたくさんある、
ロングドライブのオアシス。





1,安い
2,広い
3,意外に清潔
4,バスタブ有(しかも広)
5,お湯、ばんばん出る
7,タオル、使いたい放題
8,トイレットペーパー、使いたい放題
9,コーヒー&アメリカン・マフィン、サービス
10,朝食、サービス

‥‥‥









豊かな国、アメリカ。

(モーテル万歳!)




地図を片手に明日の旅路を考える。


‥‥‥やっぱり、まんざらでもない。


●vol.4車窓から
ヨセミテ国立公園へと向かう。
気分は「世界の車窓から」。
世界中の汽車の窓からの風景を流す5分間の番組。
大好きな番組。

街を抜け、さびれた街へ入り、
また抜け、牧場が見えてきた。

牛がいる。
牧場地を走る。
また牛がいる。

どこまでも、その風景は続く。
どこまでも牛がいる。
家がぽつんとある。
またどこまでも牧場の丘は続いていく。
しばらくすると、小さな町が現れる。
ガソリンと食料を仕入れる。





いつの間にか
のどかな丘が山へ変わり
背の高い木々に囲まれる。

眼下には今さっき走ってきた
牧場の間の道がつづき、
夕暮れの空が
きれいに染まっていくのが見えた。




●vol.5 THE・YOSEMITE !!

Yosemite National Park


ここが、ヨセミテ。
目の前には
見たこともないほど巨大な岩壁があり、
目を疑う美しい形と模様と陰影を創り出す。

眼下には、
底の見えない谷間が広がり、吸い込まれるような深み。

見上げると
途方もなく大きな木がそびえ、
空のグラデーションにシルエットが映る。


岩壁から滝が流れ、虹をつくる。

湖は凍り、落ち葉が封印されて時間を留める。

手のひらよりも大きな松ぼっくりが、転がっている。

動物たちと出会う。
鹿は静かに見守られながら草をはむ。

12月の冷たく澄んだ空気が顔を刺す。
ロッジに戻ると、暖かいクリスマスイルミネーション。










大きな自然の中に
すっぽりと包まれて
月を眺めて
ワインを飲んだ。

ここは、どこだろう。

●vol.6 一足お先にメリークリスマス!
しずかな時間の流れるヨセミテに
後髪ひかれる思いでハンドルを取る。
車窓は、再び広大な大地へと突入し風車の丘を越え、
大きな橋を渡るとサンフランシスコの街に入る。

まずは、ツインピークスに住むA氏の家を訪ねる。
サンフランシスコが一望できる部屋はとても居心地がいい。

今回サンフランシスコへ来た目的は友人達に会うこと。
今夜はパリを中心に活躍するフォトグラファーLeon Saperstain氏の実家のクリスマスパーティーに招待されていた。

アメリカのホームパーティーに参加するのは初めて。
(アメリカも初めてなのだから当然である)

「カジュアル」スタイルのパーティー、とはいうものの…
私達は慣れないパーティーへ何を着ていくかと大はしゃぎ。
私は黒のロングドレスとからし色のショール。
A氏は赤いスーツに毛皮にハット。
K氏はジャケットとタイに着替える。

カボチャの馬車はA氏の愛車ポンティアック。
気分は映画の登場人物。
夕焼けのゴールデンゲートブリッジを渡る。










蔦のはう大きな西洋館には、
クリスマスのイルミネーションが眩しかった。

中から暖かい光と笑い声。

ドアをあけるとシャンパンを手渡される。
私達3人のちょっとおかしな格好はその場に急に溶け込んだ。

戸惑いぎみの私達にLeonの母親Jeanineが声を掛けてくれた。
「ようこそ。よく来てくれたわ。レオンには会ったかしら?私はまだ会ってないのよ。そういえば、この会の招待状を見た?」

手渡してくれたINVITATION CARDには、私がいた。
(無論、Leonの作品としての「私」だが)

その後は、Leonと再会を喜びあい、
沢山の人たちと挨拶をし、紹介され、会話をし、美味しい料理とお酒を片手に、すきな場所へ歩きまわり、笑い声と音楽とイルミネーションの光を楽しんだ。

夜風にあたろうと中庭へ出るとライトアップされたプールのほとりに誰かが置いていったワイングラス。

時計は夜中の12時を回り、
私達は一夜の夢から覚めるように家路へついた。




●vol.7 海の孤島
サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフ。
船に乗り、辿り着くのは海にうかぶ孤島。





アルカトラズ









見たことのある寒々しい風景。




映画の中にすっぽり入り込んでしまったように、
まったく同じ場所だった。


ここは観光地として公開されているが、
『観光』というには、あまりにも暗く、リアルだった。

ここで行なわれていたであろう囚人への虐待、暴動、犯罪、生活の音が何もない灰色の壁の中から聞こえてくる。
自分が歩くたび、響く足音が看守の足音と重なってぞっとする。
観光客のささやきが、囚人のうめき声に聞こえてはっとする。
匂うはずのない排泄物の匂いや汗の匂いが、
この壁には染み付いて取れない。
面会の窓。


分厚い壁に阻まれた小さな窓。











遠く離れていく孤島を見て、ほっと息をついた




●vol.8 道の彼方

どこまでも続く長い道を走っていた。


山を越え谷を越えたら
まっすぐな道だった。


そうだ、これもアメリカでやってみたいことの一つだった。
ひたすらにまっすぐの広い道を車を飛ばして走る。

それはごく当たり前のように現実になっていた。


まっすぐの先が細く細く視力の限界で切れるまで、
伸びていた。





お昼前にサンフランシスコを出発。

気持ちのいい1本道が終わるころには日が暮れはじめ、
ウェスタン映画に出てくるようなさみしい街に、カジノやスーパーが並ぶ。
きっと州が変わったのだな、と思った。

長いドライブの疲れと、この街の夜。
人気のないコンビニエンスストア 。
思わず銃を持った強盗を連想する。

…あまりにも似合いすぎ。

このまま進みたい衝動を押さえ、忘れちゃいけないガソリンの補給と食料を買い込む。


21:00 宿に逃げ込む。
明日も長い道のりだ。





目を閉じても、
まだ頭の中に通り抜ける景色の映像が
ぐるぐる回っていた。

●vol.9 UFO
人間、自分の目で見て体験しないかぎり
なかなか信じられないものだ。
小学生の頃流行った、UFOの話。

幼馴染みの子は「見た」といい、
当時私も信じていたし、
今も、
きっと彼女には見えたんだろうと思っている。

でも、私自身は未知なる物体との遭遇をしないまま、成長した。

「UFO」という言葉すら長いこと消えていた。
早朝
まだ暗いうちにデスバレーへ向って車を走らせていた。
街を出ると真っ暗な闇の中。
視界は車のライトのあたる範囲だけ。
地図と標識だけを頼りに進む。


遠くの空の彼方に朝の訪れがほのかに感じられるようになり、自分がどんなところにいるのか、見えてきた。
地図どおり、ずっと山だった。

地図上の細い血管のような道を
粒子のような私達が懸命に車を飛ばしている様を
別の自分が空の上から目で追っているような気になってきた。

私は、かなわない大きさに圧倒されていた。

この大地は果てしなく、
山々は幾千回もこの朝の訪れをくり返してきたのだろう。

ここには、想像をはるかに超えた大きな力が存在し、
UFOだってここには降りてくる。
薄闇の中で無限の宇宙を想像した。

アメリカのほんの一部を見ただけで、
日本は比べようもない小さな島国なのだと知った。
その中でさえ、小さな自分。
「傲慢な大国」というアメリカの印象を思い出した。
それどころではない。




小さい粒を見せられた気がした。

驚いたが、
楽になったのも事実だった。



デスバレーに入った。



●vol.10 デスバレー

Death Valley。
「死の谷」。

なんて名前をつけたのか。

広大に拡がる砂漠地帯。

ここはカラカラの土地。

夏にはくるもんじゃないだろう、冬でよかった。
灼熱のかげろうが目に浮かぶ。
何も無い土地。

砂漠の中を通り抜け、砂丘を歩き、丘の上から大地を見下ろす。
実は、
車で3-4時間も乾いた地面だけを眺め続けたこの土地が、
このアメリカの旅で一番印象深いものになった。

理由は、わからない。





『何も無い土地』にはさわやかな風が吹き、太陽が降り注ぎ、
青空が包み込み、わずかの命が存在する。
きっと何か知らなかったものがあったのだと思う。


●vol.11 ラスベガスへ



デスバレーを抜け、やっと昼食。

客はわたしたちだけ。

雰囲気は上々、味は…
    …これも雰囲気どおり固い肉がきた。
さあ、ラスベガスに向おう。
砂漠の中に唐突に現れる虚構の街。


ラスベガスは巨大なおもちゃだった。

すべてが張りぼてのよう。






この虚構を
この規模で
現実に作ってしまうところが
『アメリカ!!』と思った。
シルク・ド・ソレイユの『O』を観るために、ここにきた。

現実とは思えない、素晴らしいショー。


この巨大なもの、街もショーも、全てがエンターテイメント。


きっと、これがアメリカ・ベガスそのもの。

●vol.12 おなかいっぱい
なんだか、おなかいっぱい。
ラスベガスには食べ放題のレストランばかり。


でも、
今の、
この"おなかいっぱい"


原因はそれだけじゃ、ない。
数日間、はじめてアメリカを見た。

アメリカのほんの一部。







ほんの一部。
自分の細胞、この何兆分の一なのだろう。

ー果てしない。



砂の数…


いろんな人がいて、いろんな生活が、ある
今から、グランドキャニオンに向うのだけど、




あたまは空っぽで、おなかはいっぱい


●vol.13 EL TOVAR
グランドキャニオンに近付くにつれ、
山が深くなり、
夜が深くなり、
気温が下がっていった。


人気がなくて大自然の中は怖い。
早くロッジの部屋へ駆け込みたい。





!!!



クリスマスツリー

行き当たりばったりで決めたロッジは
グランドキャニオン唯一のホテル、
El Tovar。


今回の旅で一番素敵なホテルだった。
山小屋風のオークの色合い、
サンタの帽子をかぶった鹿の剥製
火を入れた暖炉と大きな靴下。

厳しい寒さと対象的な暖かさで包んでくれる。

そうか。明日はクリスマス・イヴ



●vol.14 極限
AM4:00 撮影に出かける。
12月末、真夜中のような暗闇。

月が出ていた。

グランドキャニオンの谷に吸い込まれそうな闇が、眼下に拡がっていて、そこにいる大地は生きているようだった。







闇と月と岩と無限空間。
風も強く、目眩を起しそうで、立っているのがやっとだった。



とにかく寒かった。
今までの人生で一番寒かった。

日の出はどれほど美しいだろうと思いながら強烈な寒さに耐えていた。
だんだんとグランドキャニオンが姿を見せはじめる---
太陽が姿を見せるまであと、5分----
そのとき、人の声がした。
日本人だろうか、アジア人の観光ツアーが日の出を見に来たのだ。






私の集中力の糸はここで切れた。
そして、寒さに耐えられなくなった、日の出前に。
その時点で、既に姿を見せているグランドキャニオンに私はなんの感銘も覚えなかった。

まだ暗闇の中からわずかな視界の中に聳える谷は怖かった。
迫力と自然の偉大さを感じさせてくれた。

姿を見せた風景は、既に知っていた。本の中と全く変わらない姿。

寒さの極限で余裕がなくなったからなのか、、、。鈍感さに呆れるが、、、、、仕方ない。
霧で見えなければよかったのに、と思う。

あとから写真で見た方が、「すごい!」…と思うのは私だけ?


そのあと、私はホテルで菓子パンを黙々と一気食いした。
やはり極限だったようだ。




●vol.15 最終地へ



夕方ロスへ入ると、街はほとんどがお休みで、
人通りも少なかった。
グランドキャニオンから、ロサンゼルスへ向う。


もうすぐ旅も終わる。



12月24日。
クリスマス・イヴだ。






お店はファーストフードだって閉まってる。

小さな一角で、サンタクロースや偽ビートルズのライブがやっていた。
観客は、少ない。


25日朝。穏やかに晴れ上がっていた。



人気のないロスは、面白くはなかったが、気持が良かった。
お腹が満腹状態の私には、ちょうど良かったのかもしれない。



●vol.16 最後の夜



モーテル万歳で過ごしたアメリカ生活。

サンフランシスコ空港から始まった旅。
モントレー、ヨセミテ、サンフランシスコ、デスバレー、ラスベガス、グランドキャニオン、ロサンゼルス。


最後の一晩くらいはリッチにルーズベルトホテルにでも泊まれば良かったものを…。






空港のそばで決めた部屋は、なんだか物騒で落ち着かない。

映画の真似ごとをしてみる。

1,ドアの前にスーツケースを置いて入口を塞ぐ。
2,カーテンを閉めたまま外を伺う。
3,洋服を着たまま寝る。


うん、なかなか様になっている。
非常ベルのようなサイレンの音でびっくりして飛び起きた。



閉めたままのカーテンから、恐る恐る表を覗く。
部屋から人が飛び出してくることも、怒鳴り声がきこえることも、銃声がきこえることも…なかった。


結局そのまま辺りは静まり返ったまま、
私はまんじりともせず、朝になった。





朝、オーナーに昨夜のサイレンのことを尋ねる。

けげんな顔で「…ああ、パトカーのことか」


壁には各国の時間を指した、いくつもの時計。
"JAPAN"と書かれた時計は、真実の日本時間より6時間も遅れていた。

●vol.17(最終回) 母なる大地へ
そこは途方も無く大きな大地。

道のりは遠くどこまでも続き、空は青く、空気はカラリと軽かった。

この広い大地の中で、出るに出れずに、
もしかしたら私よりも狭い世界で生活しているかもしれない人々がいる。
この国にいるあいだじゅう、ひしひしと感じていた。

私という固体はなんて小さいのだろうか、ということを。



その小さな固体が、空を飛んで、
この大きな大国へやってきたという喜びも同時に。
限りある私の無限のエネルギーと可能性も同時に。





大地を讃えて、万歳しよう。






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